与太らぼ。
現在、一切の研究は行っておりません。 存在自体が《与太》なのです。

「クソっ!」
彼は何度目かの悪態を無意識のうちに繰り返した。
余裕を持て余していたのはほんの数分前までの話。
今はどうだ?
一度もこちらが優勢になったことなどない。
今も前衛を逃がすために支援するのが精一杯ではないか。
油断はしたか?
いや、していない。
アイツらは去年の優勝チームを倒した連中だ。
気合も入れた。準備もした。作戦も万全だった。・・しかし。
しかしヤツラはその作戦を逆手にとって反撃しやがった。
試合が開始した直後にアイツらのキープに奇襲をかけた。
守りの準備をかけられてしまう前に
キープ前のフラッグを奪うつもりだった。
失敗だ。
詠唱破棄して打ち出した火球はヤツラの最奥の
如何にもお高く止まった女に当たることもなく、
その直前で爆ぜ、早速予定外だ。
素早くフラッグに詰め寄ったこちらのエースは
その寸前で足止めを喰らい、反撃の火球を避けたところを氷結。
そして雷を打たれて即退場。
ヤツラの前衛二人がワザとエースを誘導して罠に嵌めた。
出遅れを装って相手に先攻を取らせる。
どの道こちらが奇襲しなくてもやられていたのかもしれない。
すでに相手に1Pt入っており、こちらのフラッグを奪うかでもすれば
向こうの勝ちなのにそうしてこない。
《透明化》で逃げ回っている残った前衛をおいまわしてやがる。
アイツらにとって、これはゲーム、遊びそのもの。
あぁそうさ。これはゲームさ。
ただのリクリエーション。
一年歓迎の一環。
一年どもにここの厳しさと己の未熟さを叩き込む場所。
・・・だったはずが。
「クソガキがっ!!」
彼──ガレリア=ハッシェフ・ジーザ──は、この先の自分と
同じ高台に立つ高飛車な少女に一睨み。
気だるそうに乱れたウェブがかった金髪を片手で払い、
視線に気付いたか両手を腰に回して余裕綽々の眼差し。
それが彼女の答え。
あぁ、もうやってやるよ。加減など知るか。
前衛の少女は幻惑系が得意だ。もう少しは引きつけてくれるだろう。
ただ、体力のことを考えるとあと1-2分持てばいいほうだ。
ガレリアは両手を広げ複雑に印を組む。
そして高らかに声を上げる。
唱ってやるよ。
「クソッタレっ!」
そしてまた悪態が漏れる。
彼は唄う。それは短くとも長い、長い魔力の旋律を。
彼は何度目かの悪態を無意識のうちに繰り返した。
余裕を持て余していたのはほんの数分前までの話。
今はどうだ?
一度もこちらが優勢になったことなどない。
今も前衛を逃がすために支援するのが精一杯ではないか。
油断はしたか?
いや、していない。
アイツらは去年の優勝チームを倒した連中だ。
気合も入れた。準備もした。作戦も万全だった。・・しかし。
しかしヤツラはその作戦を逆手にとって反撃しやがった。
試合が開始した直後にアイツらのキープに奇襲をかけた。
守りの準備をかけられてしまう前に
キープ前のフラッグを奪うつもりだった。
失敗だ。
詠唱破棄して打ち出した火球はヤツラの最奥の
如何にもお高く止まった女に当たることもなく、
その直前で爆ぜ、早速予定外だ。
素早くフラッグに詰め寄ったこちらのエースは
その寸前で足止めを喰らい、反撃の火球を避けたところを氷結。
そして雷を打たれて即退場。
ヤツラの前衛二人がワザとエースを誘導して罠に嵌めた。
出遅れを装って相手に先攻を取らせる。
どの道こちらが奇襲しなくてもやられていたのかもしれない。
すでに相手に1Pt入っており、こちらのフラッグを奪うかでもすれば
向こうの勝ちなのにそうしてこない。
《透明化》で逃げ回っている残った前衛をおいまわしてやがる。
アイツらにとって、これはゲーム、遊びそのもの。
あぁそうさ。これはゲームさ。
ただのリクリエーション。
一年歓迎の一環。
一年どもにここの厳しさと己の未熟さを叩き込む場所。
・・・だったはずが。
「クソガキがっ!!」
彼──ガレリア=ハッシェフ・ジーザ──は、この先の自分と
同じ高台に立つ高飛車な少女に一睨み。
気だるそうに乱れたウェブがかった金髪を片手で払い、
視線に気付いたか両手を腰に回して余裕綽々の眼差し。
それが彼女の答え。
あぁ、もうやってやるよ。加減など知るか。
前衛の少女は幻惑系が得意だ。もう少しは引きつけてくれるだろう。
ただ、体力のことを考えるとあと1-2分持てばいいほうだ。
ガレリアは両手を広げ複雑に印を組む。
そして高らかに声を上げる。
唱ってやるよ。
「クソッタレっ!」
そしてまた悪態が漏れる。
彼は唄う。それは短くとも長い、長い魔力の旋律を。
この世界には魔術というものがある。
それは神が残した最後の贈りモノ。
誰に聞いてもそう答えるだろう。
魔術は誰にでも扱える、極々ありふれたものだ。
ただ、それは魔術のホンの上澄みに過ぎず、
その全てを統べるものはいない。
人の好奇が古き魔術を呼び、人の狂気が新しき魔術を呼ぶ。
そうゆう世界だった。
ここはネペンシ。雪と霧を孕む陸の孤島。
旧皇都オズマの北西を貫く、ミョルニュ山脈を越えた小さな都。
周囲を霊山に囲まれた竜脈の集う場所。
大地母神の加護を受け、同教会が国を統治する神聖都市。
そして同時に多くの魔術師が居を構えていたため『魔道都市』とも呼ばれていた。
そこにシェリス魔術学院があった。
『天上の楽園』を冠するその学院は、ネペンシでも最古の魔術学院。
格式は高いが、その反面 変人 も多く集まる事でその名を馳せていた。
そこでは新入学生が入ると、その三ヵ月後に
歓迎と称してあるゲームが行われている。
3人対3人のチーム制で、魔術を駆使して相手を2名以上倒すか、
敵陣地内のフラッグを奪い、自陣のキープに持ち込むか、
それとも相手のキープと呼ばれる三角柱を倒すかで勝敗を喫する
『マジック・クーレ』。
それは学年対抗のトーナメント式で行われている。
前回の有力なチームはチーム編成を変えずシードとして登録されており、
一年はその実力の程を試し、それ以外は成長の程を試す場。
ただそれだけであった。
だが今年は様子が違う。
初回はドタバタとした一年『らしい』試合をしてたかと思えば、
二回戦の昨年の覇者との試合で一変。
試合時間をギリギリまで使っていたがどう見ても
一年の方が終始有利に攻め続けていたそんな試合だった。
今は三回戦/準決勝。前回の準優勝チームは先の試合と同じように
一年相手に苦戦を余儀なくされていた。
『私(わたくし)にも出番を下さりません?』
彼女は、先ほどからただ一人を追い掛け回すチームメイトに愚痴をこぼした。
ゆるいウェブに艶やかな金髪。
少しつり上がったネコのような瞳。
その目には意志が強く灯り、見るものを傾城させるほどの魅力も伴っていた。
・・・が、どうみてもまだ子供。
彼女が今のまま大きくもなればそれも適うのかもしれない、
そういった将来性は窺える。
周りが運動のしやすい運動着なのだが、彼女だけはまるで場違い。
他のものよりも長けの長いスカートの、制服姿。
風紀に厳しい導師も彼女の名を出せば身動ぎ、そして何も言わなくなる。
メディナ=オル・シーケル。
彼女の家は学院に多大な寄付を収めている旧家の筆頭。
経営には関与していなかったが、圧力にはそれだけでも十分だった。
どこに居ても、どこに出ても彼女は自分の背負った名一つで
周りが同じような態度を取るのが気に食わなかった。
それが腹立だしく、傍若を揮えど誰も咎めもしない。
寂しかったのだ。ずっと。
だが今は違う。
『ほらメディナも探せよ。高いところにいんだろ? 見つけてくれよ』
『そっち行ったよ! ・・・あれ? 違うっぽいや』
耳につけたサークルからチームメイトの二人から声が聞こえる。
《転瞬言霊》と呼ばれる念動系魔術の一種。
口を動かすことなく念ずるだけで、遠くに離れた人と会話するための魔術だ。
ただ、これは特別製でこの耳のサークルを持った人通しでしか会話に参加出来ない。
作ったのはチームメイトの唯一の男性、ユーマ=ロッサ・マータ。
《魔法具》と呼ばれるマジックツール。
彼はこの手の道具を作るのが上手だ。
これを市販するだけでも十分な益を生むだろう。
約100m内しか送受信出来ないという欠点があるが。
目を凝らすと二人が追い掛け回している先に時折、揺らぎが発生する事に気付く。
二年のあの女は《透明化》で今も逃げ回っているが、
完全な《完璧透明》ではないため、逃げる痕跡が生まれる。
それを簡単な《幻影》で隠しながら移動している。
その《幻影》こそが揺らぎの正体。
どうやら指示するまでもなく、まもなく二人とも女に追いつくだろう。
『・・・なんだよあれ?』
もう一人のチームメイトが追い掛け回すのをやめて相手キープを見ていた。
『さぁ? 何でございましょうね。初めから見てましたがあのような魔術は私、存じ上げません』
彼の印を切る動きは止まり、長い詠唱に入っている。
周囲に目を凝らせば見つけられるほどの魔力の集層が見える。
即ち、強大な術。
会場の上部から観戦していた他の生徒も少しずつ異変に気付き始めたが、
誰も逃げ出そうともしない。
試合会場の中央に巨大な火球が生まれ出ようとしても、だ。
『じょ、上級火術じゃないですか?!』
魔術はロクに扱えないが、魔術知識は誰よりも備わっているのがユーマ。
慌てたように審判の導師を見入るが特に動きなし。
皆興味の目でその術の完成を待っている。
『見てたのなら言って下さいよ・・・』
メディアに悪態をつきながらユーマは転進して相手キープを目指す。
幼い顔立ちだがそれに似合わぬしっかりとした体格。
短く刈られた赤く輝く金髪は収穫前の麦を髣髴とさせていた。
しかし目的地には届かず、相手の《幻惑》で隠されていた罠にかかり失速。
『何やってんだよ』
もう一人がすかさず突っ込む。しかも含み笑い。
『うっさいよ! アイツ止めろよ、ヤバイって』
《泥沼化》に突撃してしまったユーマはそこから抜け出そうと必死だ。
発動直後から周囲にも影響が拡大しているところからすると、
設置したのはかなりの使い手と評して良い。
仕掛けた本人は開始早々にのびてしまっていたが。
『あらあら、まぁまぁ──』
術は完成した。
火球は完成と共に膨大な熱量を周りに吐き散らし、
ゆっくりと地面へ降下していく。
《爆裂火球》。ご丁寧に多大な魔力を食わせた品物だ。
爆ぜる直前に誰かが叫んだ。さすがに事の大きさに気付いたのだろう。
揺れる大気。叩きつけられるような爆風が会場を包む。
会場中央の隠れるための足場は術に耐え切れず粉々になっている。
反魔法物質で保護されてあったにもかかわらず、この様から
術の強大さが伝わってくる。
「・・・やってくれましたわね」
一人身を隠すような場所もない高台にいたメディアは、
爆風を受け尻餅をつく。悪態はそんなことに対してではない。
《透明化》で逃げ回っていた女がドサクサに紛れて
こちらのフラッグを奪っていた。
肩で荒い息をしている。術を解いていることからしてもう限界なのかもしれない。
ガレリアは術の効果に酔いしれていた。
あぁ、オレはやっぱり偉大だ。
ハシェッフの名を汚すマネなどしておりませんよ、兄上。
聞いてください父上、この歓声を。
これで私の勝ちが決まりますよ、ははう。
彼の酩酊はココで終わり。
その代わりに首筋から鈍痛が走り、やがて自由というものが程遠くなる。
何とか首だけを動かし、ようやく気づいた背後の異変に目をやる。
三角柱の上に誰かがいた。丁度照明に当たり顔までは見えない。
だがその髪色が何色なのかは分かる。
金。
まだ会場を支配する風に艶やかな金髪が揺れている。
ただ、あの高飛車な女の髪ではない。
真っ直ぐでそして、軽やかに馬の尾のように風の中を泳いでいる。
目が合った。
「あ、ごめんね。踏み台にしちゃった」
屈託のない笑顔が彼を射抜く。
「・・クソ・・・・ガキ・・が・・・・」
そこで彼は意識を失った。
彼が倒れると同時にキープが地面に転がってゆく。
試合終了。
湧き上がる歓声。
審判の宣言と共にトドメを差した少女が手を上げた。
『今回の出番は尻餅ですよね? メディナ』
『あぁ、良い囮でしたよ、メディナさん』
二人がからかう。
悔しいがまだ立てない。
ユーマがくれた《退魔の指輪》で直撃は免れたが、
腰が少し抜けてしまって一人では立ち上がれそうにもない。
目の前に音もなく金髪の馬の尾っぽが舞う。
憎たらしいほどの笑顔がメディナに手を伸ばしてきた。
「・・・覚えてらっしゃい、エルフィーナ」
最年少の彼女はそれをにこやかに交わす。
「またまた、ご冗談を」
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HN:
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年齢:
45
性別:
非公開
誕生日:
1979/07/27
趣味:
多趣味。
自己紹介:
日和見主義者でまったり派。
やるゲームで、
妙な縛り要素を好む。
お天気バカ、えせ博学。
結構適当。
360保持の奇特者?
ぐだぐだの
長文まにあなのは確か。
やるゲームで、
妙な縛り要素を好む。
お天気バカ、えせ博学。
結構適当。
360保持の奇特者?
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